KUROZOME
REWEAR
FROM KYOTO

KUROZOME REWEAR FROM KYOTO

JOURNAL

対談
アンリアレイジ デザイナー森永氏/19.0723
PROFILE
Kunihiko Morinaga
デザイナー森永邦彦。1980年、東京都生まれ。
ANREALAGEとは、A REAL-日常、UNREAL-非日常、AGE-時代、を意味する。 早稲田大学社会科学部卒業。
大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。
2003年、「アンリアレイジ」として活動を開始。
Tohru Arakawa
(株)京都紋付 代表取締役。1958年、京都生まれ。
1996年、父荒川忠夫から(株)京都紋付を引き継ぐ。
2003年より独自の深黒加工技術をアパレル業界に提案し、黒染めで有名ブランドとのコラボレーションを行う。黒染で繊維製品の再生に取り組む事業も展開。

Kunihiko
Morinaga

デザイナー森永邦彦。1980年、東京都生まれ。 ANREALAGEとは、A REAL-日常、UNREAL-非日常、AGE-時代、を意味する。 早稲田大学社会科学部卒業。 大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。 2003年、「アンリアレイジ」として活動を開始。

Tohru
Arakawa

(株)京都紋付 代表取締役。1958年、京都生まれ。 1996年、父荒川忠夫から(株)京都紋付を引き継ぐ。 2003年より独自の深黒加工技術をアパレル業界に提案し、黒染めで有名ブランドとのコラボレーションを行う。黒染で繊維製品の再生に取り組む事業も展開。
黒の景色
森永様とのご縁は、2016年8月南青山に新店舗をオープンされた際に、森永様の過去のコレクションを当社の黒染めでアップサイクルさせて頂いたのがご縁です。
その後、森永様も2017年には「株式会社あの服」で古着をアップサイクルされるなど当社の黒染めとの親和性を感じて、本プロジェクトに関しての対談をお願いしました。
荒川
今、古着の染替を行っているんですがそれが結構面白い仕上がりになる。
いろいろな衣類があるのでその表情が変化するのが面白い。
ところで森永さんと一緒に染め替えの仕事をさせていただいたのは2年前でしたよね?
森永氏
そうですね。光の吸収を当時テーマで考えていて。
最も光を吸収する素材や染め方がないか?と思っていた時に
黒をより黒く染めている京都紋付を知って連絡させていただいて。
荒川
青山店オープンの時の商品でご一緒させていただいて(染めさせていただいた商品は)。
あれは過去のコレクションですか?
森永氏
そうです。過去のコレクションで。当時青山店がオープンした時に自分たちのつくってきた服にもう一度光を当てたいとおもって。
全て1点もののアイテムを黒く染めていただきました。
荒川
2013年から一度世の中に出た商品でシミや汚れで着れなくなったものを黒く染めるというブランドを立ち上げて。
それが『KUROFINE』※1というブランドです。
丁度それが森永さんの考えている再生と当社の新しく価値を与える考え方(アップサイクルプロジェクト)合致したのですね。
(前にある白から黒に染替たアンリアレイジのJKTを見て)
もともと森永さんから頂いた真っ白で少し焼けがあった商品を黒く染め替えたんですが、
真っ黒にならずところどころ良い感じのムラになっていますが、どういう作りなんですか?
森永氏
この洋服自体樹脂でシワをつけるという加工をしている商品です。
手作業でアクリル樹脂で固めるという手法でシワを作ったJKTです。その樹脂の部分がムラになっているのですね
荒川
森永さんの場合、『洋服を科学する』という切り口で洋服を作っておられますが、
その中でアクリル樹脂を使ったものというのは、私たちからすると染めの邪魔になりそうなものなんですが、
結果としてこのような表情になって私たちも想像がつかないものになりました。
実際に見られていかがですか?
森永氏
そうですね・・・透明な樹脂だったので白い服に加工した時は真っ白でしたが、
染めたらその部分には染料が深く入らずムラになったのですね。
荒川
もともと真っ白でしたもんね。肩の部分に日焼けもあったんですけど、
染替たことで日焼けも全く分からなくなって表情が豊かになっています。天然繊維ではなく、
ポリエステルの糸を使用して縫われている部分は、染まらないというのも特徴として出てきて、
なかなか面白いダイダイ染に仕上がりになりました。

実際、私たちが黒く染めた商品にはどういった感想を持たれましたか?
森永氏
今までのアンリアレイジの洋服とは全然違うものと認識しています。
僕らは1着にすごく沢山の工程を使うので、
一見真っ白なものでも素材によって(染料の)浸透の仕方が違っていて、
それを染めた結果、黒の中にも様々な色味の異なる黒が生まれて、
洋服が新たな表情に生まれ変わった感じがします。
荒川
先ほど言われたように黒の中にも色んな黒があって。いろんな素材を使って作っていて。
黒く染めても製品として染め上がった時に染まらない糸が柄になるっていうことは一般の方々は想像もつかないですよね。
そこをデザイナーの方が製品を作る前からデザインして、
黄ばんだり焼けたりした商品を黒く染めたら全く新しいデザインになって甦るというのは、楽しみの1つでもありますよね。

私たちは、今アップサイクルということをやっていて
いろいろな衣類を染替て1つの衣類を大切にしよう、長く使おうというプロジェクトを行っています。
例えば白い洋服を買ってそれが汚れたり日焼けしたりすると着られなくなる。
なのでデザイナーの方が最初から染替えすることを前提で服を作ると、
その洋服を違った色で2回着られるようになるという仕組みを提案したいと思っています。
私たちから言うと1つの衣類を2回着用できるというのは販売する側・物を作る側の視点からみると
販売のチャンスは減ってしまう訳で。
新しい衣類を買わずに1つの衣類を長く着られるようにしようという提案になります。この考えはどう思われますか?
森永氏
もともとはリバーシブルとか2WAYという1つの製品で、
価値を2つ以上提案するという商品もあって。
僕らはそれに対して新しい手法で表現をしなければと思っているので。
白い服と赤い服があったらリバーシブルとして白から赤に変わっていくのではなく、
それが光を浴びたら色が変わる、本来2着であるべきものが1着の中で2色を併せ持つ。
それを長期的な視点で見た時に1本のデニムがだんだん色褪せて
10年スパンで成長して完成するというようなことを、デザインの中で目指せたらと思っています。
時間的な側面から見た洋服の経年変化が2WAYで表現できたらまた可能性が拡がります。
荒川
着物の文化は擦り切れたり汚れたりしたら縫いこんである内揚げを下ろして縫い直してまた着られるようにします。
1着を長く大切に着るということは共通している部分なのかなと思っています。もったいない精神というか。
洋服の再生を始めたのは着物のメンテナンス業務をお受けしている際に、
黒染め屋さんなら洋服も黒く染めて欲しいという声が何度かあったんですよ。
じゃあ、これは面白いプロジェクトになるかもしれないなと思ってやり始めたんですが、
意外にもマーケットやニーズがあることを実感しました。
私たちはこれをもっと資源の再活用という観点からも、広めていきたいと思っています。
先ほどお話したようにデザイナーの方が染替えを行うことを前提に衣類を
作っていただけるといいなぁという考えに繋がっていったんですよね。
それは何故かというと古着の染替えを行った際にbeforeよりも黒く染めたafterの方が
カッコイイと思ったものが沢山あったんですよ。そういうものを沢山見ました。
カッコよく染め替えができたら消費者の方は喜びますよね。
ただ、今はファストファッションであったり、衣類に対しての考え方も時代とともに変わっていっていますが、
1つの取り組みとして染替えというものを定着させていきたいと思っています。
染替えというプロジェクトは、クリーニング会社と提携したり、リフォーム会社と提携して消費者に提案しています。
ところで、森永さんにとってデザイナーとして洋服と黒の関係についてはどう思われているかとお伺いしたいんですが。
黒はどういう色だと思われますか?
森永氏
デザインでつくりだせない領域の色。意図して作れない自然現象が生み出した色。光がない世界の状態なのが黒。
一日に必ず一回訪れる色。光があって色を認識しているので、光がない状態というのは全ての終着点。
日常的に着ることに隔たりがあった色。今や日常的に着る色になりましたが、
その黒という色自体がファッションの中で経てきた歴史もすごく好きで。
荒川
黒という色はすごく意味深い色だと思っています。
英語で言うと黒は『BLACK』ですけど、日本語だと「漆黒」とか「濡れ羽色」もそうですし、
色んな言葉があるんですよね。瞳が黒い日本人と外人とでは見える黒が違うらしいです。
日本人は黒という色に対して肉体的にも精神的にも感じやすい国民ではないかなと思っています。
黒は、黒子のように自分を消します、また相手に敬意を表する色でもあります。
黒紋付は明治時代に第一礼装に指定された歴史もあり、
また私共が染めている紋付は日本の伝統的な行事には欠かせない衣装です。
その伝統的な技術を継承していくのが、わたくしの会社の使命です。
話変わりますが、着物業界で生きてきて、1つ悲しいのは着物のマーケットというのがどんどん縮小しています。
でも私たちはそのマーケットが縮小している中で伝統的な黒染めの技術を残していかなければなりません。
そのためには、着物を染めるだけでなく、今持っている技術を現代社会にマッチした洋服に活かしていきたいと思っています。
伝統産業というのは残念ながら、変化と革新がなければ、前と同じものを作っているだけでは、縮小してしまいます。
伝統的な技術を使いながら、今の世の中の生活スタイルにあったものを提案していく、それが革新になると思っています。
洋服を作っておられると常に刺激的な新しいものに挑戦していかないとブランドとして革新がなくなると思います。
私たちは伝統産業と革新が挑戦になりますが、森永さんに取って挑戦というのはどういうことになりますか?
常に挑戦ということは考えておられますか?
森永氏
自分たちのつくりたいものがあって、それを売る。そういう挑戦ですね。
それがその時代に売れなくても、自分たちが信じていればいつかは誰かに届くと思っています。
つくりたいものが売るためだったり、マーケットに合わせてだったり、他にあるようなものだとしたら、
特に自分たちで時間を労力をかけてつくる必要もないので。
荒川
作りたいものを作って商売にするビジネスとのギャップってありますか?
森永氏
ギャップはすごくありますよ。新しいことであればそこにマーケットは無いですし。
無ければ、それは自ら作っていかないと、いけないので、簡単ではないですね。
荒川
マーケットのないところにマーケットを作っていけばそのマーケットは自分で独占することも出来る。
強みだったり個性だったりそのブランド力になっていくと思うので
それをやり続ける研究心がないと出来ない事だとは思うんですけどね。
デザイナーの方が科学的な知識を持っているのはすごいなと森永さんを知った時に思いました。
森永氏
やっぱり自分自身で勉強しないと出来ないので。
荒川
人と違う視点でファッションを捉えているなぁと思っています。
ファッション関係の仕事を始められた時からその視点は持っておられたんですか?
森永氏
小さいことや、見過ごしてしまようなことを、追求するブランドでありたいと思っています。
このジャケットにしてもボタンの中には小さな人のミニチュアが閉じ込められていたり、
ボタンを1度割ってからまた樹脂に閉じ込めて使っていたり、
テキスタイルであれば本来であればカットする部分をあえて残して使っていたり。
荒川
ちょっとした事の気づきがアイデアになってるんですね。
森永氏
形としては成立していますけど、左右で切り替えの入れ方が全然違っていたり。そういったことが好きですね。
荒川
今後はどういったデザインをされていきたいと考えておられますか?
森永氏
自分も気づけていない本当に当たり前に思っていることをしっかり洋服で揺るがせたいと思っています。
荒川
日本人として持っている個性、感性を日本から発信していけたらいいですよね。
今後のますますのご活躍を期待申し上げます。
※1 2020年9月より染め替えを本格的にデザインとして提案するブランド「K」としてスタート